常々感想記

本 映画 音楽 その他諸々の雑感を書き連ねるブログ

また会う日まで

「トランクスとブラには、見覚えはあるけど」

「こいつも悲しいんでしょう」

「辞めて惜しい仕事じゃない」

「おれには息子がいる!」

 

 

一年が終わる。

今年読んだ本の中で、心を打った本は数多くあるが、その中でもとびきりなもの、ほのかに発光する、本の感想。

 

また会う日まで ジョン・アーヴィング

 

ジョン・アーヴィングを知っているだろうか。現今のアメリカ人作家で一つ頭が出ている作家だ。彼の作品は喝采をもって迎えられ、大きな話題となる。

映画ファンも知っているひとは知っている。映像化されている作品がいくつもある。

 

ガープの世界

サイモン・バーチ(原作 オウエンのために祈りを)

ホテル・ニューハンプシャー

そしてとっておきが、”サイダーハウスルール”。1999年度アカデミー賞、最優秀助演男優賞と最優秀脚色賞を受賞した至高のヒューマンドラマだ。助演男優賞を受賞したのはマイケル・ケイン。そしてこの脚色賞を受賞したのが、原作者でもあるジョン・アーヴィング。彼は自身の作品に大幅な改訂を加え、映画として素晴らしいものに仕上げた。原作と映画を見比べればその差異ははっきりするだろう。

この”サイダーハウス・ルール”はぼくのベスト映画10指に入る。とてもいい作品なのでぜひ見て欲しい。アカデミー賞を獲ったマイケル・ケインもそうだが、主演のトビー・マグワイアも素晴らしい。そして音楽。レイチェル・ポートマンの音楽はぼくらの中の故郷、憂愁と寧日。穏やかで優しいものを呼び起こす。

 

ぼくは彼の作品が大好き。そんな彼が書いた本、”また会う日まで”だがコレがぼくのリビドーに早鐘を打ち、彼らに愛おしさを抱かせる。たまらなく、いじらしく、阿呆な作品。

 

あらすじ

父ウィリアムは教会のオルガニスト。体じゅうにバッハやヘンデルの楽譜を彫りこんだ刺青コレクターでもあり、弾き応えのあるオルガンと腕のいい彫師に吸い寄せられるように、北欧の港町を転々としていた。母アリスは、幼いジャックの手をひいて、逃げたウィリアムの後を追う。コペンハーゲンストックホルムオスロヘルシンキアムステルダム…。街々の教会信徒と刺青師のネットワークに助けられ、二人は旅をつづけるが、ついに断念。トロントに落ち着く。父を知らないジャックは、「女の子なら安心」という母の信念のもと元女子校に入学し、年上の女たちを(心ならずも)幻惑しながら大きくなってゆく―。現代アメリカ文学最強のストーリーテラーによる怒涛の大長篇。

 

ジャックの子供時代から大人になるまで、そして大人になって、までの話。

本は上下巻構成で上記のあらすじは上巻のあらすじ。下巻のあらすじも記載する。

 

あらすじ(下巻)

小学生時代から、女役もこなす男の子として演劇の才能を発揮したジャックは、アメリカに渡り、女ったらしの二枚目俳優となる。ジャック5歳のとき12歳だった親友のエマは、長じて人気作家に。二人はおさわりしあうだけの清い関係のまま、ロサンゼルスでともに暮らしはじめる。やがて手にするハリウッドでの栄光と、それでも満たされない心。腕のいい刺青師としてならした母亡きあと、ジャックはふたたび、不在の父を探す旅に出る。三十年ぶりに再会した北の街の刺青師、音楽家、娼婦たち…。そしてジャックがついに知ることになる愛は、思いもよらないかたちをしていた―。現代アメリカ文学最高のストーリーテラーによる、愛と幸福、記憶をめぐる物語。作家が全人生を賭けた自伝的長篇。

 

面白いです。面白いことが物語の第一条件だと自覚している人が書いた本。作者は20世紀のディケンズと呼ばれています。自身、ディケンズ大好きなようです。ディケンズといったら、その話のあらましは少し察することができるのでは。

とにかくぶっ飛んでいても、よく考えたらおかしくても、話が面白ければよし。

よく考えたら、というところがミソですね。よく考えさせないだけの技量を持ち合わせているということですから。没頭させ、熱中させる。

 

あらすじだけで話がすこし、とんでる感じしませんか。

父は刺青コレクターでオルガニスト?母は刺青師で街を転々とする?女役もこなす男の子?なのにモテモテ?娼婦に面倒を見てもらってた?なんだそれ。

性に関する話題が豊富。確かジャックはジュニアハイスクールで童貞を奪われます。父親も稀代の女ったらしということで、血を継いでいるのかジャックもすごい。ヤリまくりますし、それなのにハリウッドで女役もできる男優として売れ始める始末。セックスシンボルとして批判を受けることもしばしば。またAV関係の仕事の人とも繋がりを持つ。しかし不能に陥りかける。

やっぱ性に関する話って面白い。

 

記憶と信仰、そして音楽。ぐるぐる脳裏を駆け回る。

ジャックの中の子供の時の記憶と、ジャックの面倒を見ていた人の記憶は食い違う。人の記憶なんていい加減で、曖昧で、正しいかなんてわからない。だからこそ気持ちを大事にしたいんだろう、人ってやつは。

父親は教会のオルガニスト。腕はよく、評判も上々。一箇所にとどまらず、各地を転々とし、女をこさえては次の街に向かう。そんな父親の演奏を聴くのはジャックが大人になってからだ。向こうの人にとって信仰と音楽は切り離せないものなんだろう。”信じる”ことが初めて綺麗だと思えた。ジャックには信じるもの、それが何かわからないかった。何を信じたらいいか、ではなく、信じること、がわからなかった、と思う。

 

ジャックは何に満たされず、何を求めていたのか。

彼の足跡をたどりながらー彼自身も自分の歩んだ道をたどり直し自分の望みと相対するがーそれを僕は読む。それは「おー」この一語に尽きます。

人生って面白い。

 

 

また会う日まで 上

また会う日まで 上

 

 

 

また会う日まで 下

また会う日まで 下