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殻の少女 感想 その1 序詞まで

 

昭和という時代は近いようで遠い。和暦の中では63年、という長い時間が昭和とされその間様々なことがあった。やはり一番重要なのは第二次世界大戦でしょう。日本視点だと太平洋戦争になります。ご存じの通り日本は負けて連合国の支配下に置かれました。敗戦後の5年ほど後に講和条約を結んで体としては独立国になり、復興への道を本格的に歩みはするものの戦争の影は濃く落ちていたはずです。今回遊んだ「殻の少女」はまさにその復興に向けての動きの最中の昭和31年である1951年に起きた殺人事件を発端とする物語です。

 

この「殻の少女」はアダルトゲームでR18ですが、性的描写ではなくどちらかというと猟奇的な表現が主な原因だと思う(何をわかり切ったことをと思われるかもしれないがHなことをしないわけではないです)。詳細をくどくど述べるとあれですが、死体の損壊は当たりまえでなぜそうしたのか?という犯人の意図が全くつかめないので益々奇怪です。犯人視点でまさに殺人を行っている真っ最中を何度も見せられるので、グロデスクな描写が苦手な人はプレイするのは避けた方がいいかも。

 

あらすじ

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時は昭和31年

「もはや戦後ではない」という言葉が飛び交う日本。敗戦から10年。徐々にではあるが建物は復旧され、街に人は戻り、少しずつだが街は活気で賑わうようになった

 

寒さが和らぎ、外套もそろそろいらなくなりそうな3月。

私立探偵の時坂玲人は自宅からほど近い井の頭公園で一人の少女に出会い、依頼を受ける

「捜してほしいんだ——私を。本当の、ね」

 

それと時を同じくするころ、巷では猟奇殺人事件が多発していた。

殺害されるのは年端もいかない少女たち。肉体の一部と子宮が切断され、子宮があったはずの場所には黒い卵が埋め込まれていた。

時坂玲人は友人かつ元同僚の警視庁の魚住夾三から事件の調査の依頼を受ける。

 

玲人の妹の紫が通う、私立櫻羽女学院でもふたりの女子生徒が失踪していた。玲人は学院の教頭の佐伯時生から失踪事件の調査と学園への潜入捜査の依頼を受ける。

 

そして学院で玲人は少女と再会する

「やあ———また逢ったね、探偵さん」

 

増えてゆく犠牲者、止まらない惨劇。

玲人は、この事件を終わらせることができるのか

事件が事件を呼び、事態は混迷していく

そして、彼女の言葉の裏にある願いとは———

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殻の少女のスタート画面です。ヒューッ!儚げな少女だぜ!吹けば飛んじゃいそうだ!

 

面白かったです!俺にこれをおススメした同僚よ…ありがとう…(マブラヴの人とは別)

でも、これを、こんなものが、結末だなんて、認めちゃいけねぇ…認められねぇよ…!

ストーリーについては語り始めると止まらない気がするのですが、ところどころ荒はある気がするものの非常に満足しました。ここからはネタバレアリアリで行くぞ。振り落とされるなよ!

 

ゲームシステムの話からいきましょう。はい、ADVです。場面がテキストとグラフィックで明示され、選択肢が与えられる。選択の結果如何で結末が変わる、とアダルトゲームで見慣れた形式です。目新しいものはないのですが、視点人物が探偵だからか「次にどこに行くか」を選べます。ただこの行動を調査目的で行う、とはやや思いづらい。マルチエンド方式のため、周回プレイが前提だからか行った先で何が起こるかを推測することがほぼできず運任せ。僕の結論「総当たりすればいいじゃない!」おそらく、しっかり考えて進めば一周目でトゥルーエンドにたどり着くこともできるのだろうけど…

ただ、このゲームシステムにそこまで深い意味はないのでしょう。主人公が探偵なのも物語上そうせざるを得なかっただけだと思うので【探偵】と【ゲームシステム】が結びつく必要はあまりないはず。これはADVに限らずの話かもしれないけども、探偵という役柄は起きたことに対して行動せざるを得ない、やや受動的な立ち位置で、そういう意味ではゲームの中で進む物語を享受するしかないプレイヤーとの親和性はそこそこ高いんだよなぁ。

 

ゲーム内の時代は昭和に設定されており、この昭和という時代も相まって、ゲーム内はもはや異世界に感じた。けれどもこの時間、この風景の中で暮していた人はいた、という事実にまず驚きを感じて、驚きを感じている自分に驚いた。たった70年前だぞ…?ただ、だからこそとても魅力的にも映りました。背景にはそこまで目が行くわけではないですが、どこかノスタルジックな感じを受けるセピア調の色合い(昭和ではセピアという言葉は使われていたのかしら)会話に使われる言葉の言い回しもいまとは異なっている(気がする)。昭和で使っていて令和で使っていない言葉なんてざらにあるだろうし、逆もまたしかりでしょう。

異世界とは言ったけれども、今と地続きだからこそ夢幻であるわけでもない、遠すぎず、近すぎず…といういい塩梅です。主人公の「前に車に乗ったのは満州での戦車だ」というセリフが印象的でした。

主な舞台は東京、新宿~井ノ頭公園が中心です。地名は今でも馴染みのあるものばかり。新宿、吉祥寺、高田馬場、などなど。たまに県外に出るけどもほぼこの範囲内で物語が展開する。自分の生活圏内とほぼ近しいので、この地名だけでなんだか親近感が湧いてしまう。で、主人公は櫻羽女学院という学校に潜入するので、ここがメインの舞台になるのかな、と思ったらそんなことはなかったのがちょっと残念でした。重要でないわけではないけれども、そこまで比重が大きいわけでもない、という感じ。女子高に潜入して一体何をするんですか!?と思っていたんだけども、まぁこれは自分が思い込んでだけなので…

 

ここまでくどくどと説明してきましたが、雰囲気を掴むにはPV見た方が早いですね。

以下PVです。おしゃれです。イントロのソプラノ?サックスが好き。

 


www.youtube.com

 

ここから登場人物や物語に触れつつ、どこが良かったのか、を伝えたいんですが

・登場人物がめちゃくちゃ多い(30人越え)

・ボリュームが盛りだくさん(プレイ時間確か40時間くらいかかった)

のでかいつまんででないととんでもない長文になってしまう…

 

いや、かいつまなくていいか!

 

ゲームのプロローグには「ネアニスの卵」という作中内の小説が充てられています。この小説は、巷で人気になっている、ということが後々語られるのですが、文章が暗示めいたものばかりで一体何を意味しているのかがこの時点では全く掴めません。作者は「葛城シン」です。冒頭の1文を転載。

少女は小さな黒い卵と引き替えに胴体と、右腕と、左腕と、右脚と、左脚を手に入れました

胴体と、の前に読点を入れてくれ、と思ってしまったのですが、どこか不吉な心象をもたらす黒い卵という物体、その黒い卵と引き換えに四肢と胴体を“少女“が手に入れるという状態がいきなり綴られています。続けて読んでいくと少女は母親を作ろうとしていることがわかるのですが——まだこっちは準備できてないよ、いきなり強烈なイメージでぶん殴らないで!

近くにある大きな黒い卵からは母親の声がするのですが、(いやこれもここではようわからんのですがね?)お母さんの顔がこの中にあるかもしれない、と思い少女は卵を割ります。中は赤いどろりとした液体が溜まっているだけだったので、少女はそれを掻きまぜると、ひびから液体がこぼれます「あゝ、母様が零れていく!」なんだこのきちがい少女は。

本シーンのBGMはとってもテンポが遅い音楽に乗せて幼い少女の声が聞こえてきます。少女はラーラーと言っているだけ。テキストがのるウィンドウは赤黒く、文字は白い。背景には卵の殻が割れて泣いている少女。うーん、頽廃的だな。好き。

「ネアニスの卵」は昭和の小説ということで旧字体をちょこちょこ使っています。雰囲気づくりに一役かってます。面食らってしまいますが、最初にこの作中内小説をもってきたのはなぜなのか?は考えてもいいと思う。プレイすればわかるけれど、作者である「葛城シン」はゲーム内で大きな役割がありますし。ネアニスという単語も聞いたことがない。ただ意味を推し量るのは無駄ではない気がする。多分ありそうだけども、実際にはない単語を創作したのだとは思う。「ネアニス」という響きが、ラテン語圏の響じゃない気がするんだよなぁ…日本人が考えたそれっぽい言葉、という感じがすごいする。素人の当て勘ですが。実体、本質がありそうでないものの卵についての小説、と考えればここでの少女の行為のナンセンスさ、とつながるような気がします。この「ネアニスの卵」は後々再登場するのでそこで新しい手掛かりがあるかも。

そして、この小説のターンが終わっても詩的な文章が黒ベタ画面の中心に浮かんでは消えていきます。最後の文章はダンテの神曲地獄変の一節

この門をくぐるものは一切の希望を捨てよ

で終わるし…イタリア語も日本語の下に書いてある丁寧っぷりでこのゲーム、開始わずか数分ですげえ好事家めいてるんですよね。好き!これも本編前のエピグラフ的なものなのでしょう。このエピグラフが終わると章立てが始まり、最初は「序詩 心理試験」

序詩ということはこのお話自体が一篇の詩であるということでしょうか。プレイした後に考えるとすごい長い叙事詩です。でも作中内の小説からの導入とこの【詩】という章立てで、これから始まることは現実にそのまま即したものでなく、飾られ、脚色されて、語られるものなのだろうということを感じます。

それはこの後にモノローグが続くことからも顕著です。このモノローグがメインヒロインの朽木冬子のものだということは声から後ほどわかるけども、少女の声で「絵を描くのが好き…」と独白が始まると、制作陣の「このゲームの世界観に引きずり込んでやる」という気概をものすごく感じる。ちなみに冬子の声は作中で「鈴の音の音」と形容されるのだが、その比喩で感じた印象にいままで一番近しい声かもしれない。でも、冬子役の声優さんの名前があじ秋刀魚なのは笑うところなのでしょうか。

ノローグが終わると場面変わって私立櫻羽女学院へ。視点人物は主人公の妹の時坂紫。講堂件礼拝堂での礼拝中からシーンは始まる。どうやらミッション系の学校らしい。明治からある由緒正しい学校、厳しい校則、こういうTHE名門という学校で事件が起きるとワクワクしてしまう。その割にみんなのスカートがとっても短いのはご愛嬌。

このシーンで学院内のメインキャラはあらかた登場します。

 

時坂紫…主人公の妹 虫好き 一般常識にやや疎い

四十宮綴子…紫の親友 文学少女、学校に内緒で雑誌に小説を連載中 性格が幼い

朽木冬子…紫と同じ美術部員(メインヒロイン) 病弱 濡羽色の髪の毛

水原透子…冬子の親友、冬子に崇拝に近い感情を抱く おれはこいつ嫌いです

月島織姫…生徒会長 女生徒からの人気が高い そのカチューシャどこで売ってるの?

日下達彦…紫のクラスの担任教師 柔和な印象の若い男性教諭

朱崎寧々…養護教員 スタイル抜群 ふしだら

西園 唯…後に行方不明になる少女 美術部員 普通です

佐東 歩…唯の友達 剣道部員 つり目 (個人的に好きなキャラ!)

 

そして紫が兄の探偵事務所を訪れて、玲人に会ったところで視点が玲人に代わります。導入が紫視点だったのは雰囲気づくりと登場人物の紹介を兼ねて、でしょう。女学院の雰囲気はどこか異質です。規則が厳しい、だけでは説明できないような感じがします。学院内は色が白っちゃけてて、制服も白を基調としているのですが、逆に淫らな感じがするのは気のせいでしょうか。

以降この章であまり特筆すべきことは起きないので割愛。玲人の元同僚で友、警察の魚住夾三や葉月杏子等々他の人物が登場するけど割愛。

ただ、この章が始まった、つまり時系列の起点が昭和31年の1月14日だということと、誰のものともわからない、文章だけのモノローグが挿入される、ということは念頭に置いてもイイかも。ちなみにこの先このようなモノローグがとっても多いです。この独白は誰のものなのか?と疑念を抱かせ、内容が物騒なものや、ひどく私的な秘密めいたことだったりするので、出てくる人物たちに警戒心を抱かせます。少なくともここのものは一回クリアした身からするとバレバレなんですけどね…!制作陣がプレイヤーを混乱させようと意図してやっているんでしょう。他にも意味があるとは思うのですが後述!

なお、この章の地の文で

創世記の第四章でカインがアベルを殺して以来、殺人と嘘はいつもともにある

というのがあります。もう制作陣の芸術愛好っぷりをを隠そうとしてないのがいい。好き物ですね。こういうの僕も大好きです。こういう文章がところどころ挟まれると、どこか宗教めいたもの感じます。

 

次の章は、「序歌 幻影城」です。江戸川乱歩か!?

章が空けるとすぐ殺人事件が起きているぞ!

だが、以降、来週に続け!今日は書く気力がない。