常々感想記

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21ブリッジ

 

他人の判断に正義をゆだねるな
自分の頭で考え、行動しろ

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チャドウィック・ボーズマンの最後の主演作。
この映画を観て、本当に惜しい人を亡くしたのだな、と思った。
それほど、彼の演技は素晴らしかった。

 

あらすじ

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「良心に従うこと。善悪の判断を他人に左右されないこと。
この残酷な世界で、正しい道を歩むことを」
少年の父親に神父の言葉が捧げられている。彼は殉職した。暴行され殺されたのだ。
少年は涙を流し、棺を見送る。

成長した少年、アンドレデイビス(チャドウィック・ボーズマン)は父親と同じ刑事になった。
彼は非常に優秀ではあるが、過去の生い立ちのせいか熾烈な捜査と犯人に対する容赦ない追及のせいで、同僚たちから煙たがられている。今日の内務調査も、犯人を射殺した彼の正当性を審議するためのものだった。彼は揺るがない。何のための銃だ、正義を執行するためにあるのではないか。彼は物怖じせずに言い放つ。

そんな折、日を回ったころ2人組がワイナリーに忍び込む。
この店に保管されているコカインを盗みだすためだ。金がなければ何もできない。2人は元軍人だったが、問題を起こし罷免されたのだ。よりよい生活を営むため彼らは犯罪に手を染めるしかない。

店に残っていた店員を昏倒させ、コカインを目にしたとき唖然とした。想定していた10倍、およそ300kgのコカインが保管されていたのだ。これほどの量、一体いくらになるんだ?犯人の1人マイケルは、何かがおかしい、と訝しむ。こんな量のコカインが理由もなしにあるわけがない。俺たちはなにかヤバいことに足を突っ込んでいるんじゃないか…?

兎にも角にも急いでここを離れようと、運べるだけコカインをもって逃げようとすると、警官が突入してくる。このタイミングの良さは何だ?突入に慌てたもう一人の強盗、レイは警官を射殺する。勢いに任せ2人と警官隊の交戦が始まり、そして7人の警官が死んだ。

現場についたデイビスはNYPD85分署のマッケナ署長(J・K・シモンズ)は、アンドレに本件の捜査に当たるように命じられる。そして優秀でタフな女性、麻薬取締班のフランキー・バーンズ刑事(シエナ・ミラー)とチームを組むことになった。

デイビスは、犯人を捕らえるために、事件の起きたブルックリンのあるマンハッタン島を封鎖するという、型破りな作戦をとる。FBIや市当局の許可は取り付け、橋、地下鉄、フェリー、島と外を行き来するすべての道を止める。しかし、朝の5時までがリミットだ。それまでにマイケルとレイを捕まえなければならない。
大胆な作戦のおかげか徐々に犯人の居場所を絞り込んでいく。だが、追うデイビスと逃げるマイケルはこの追走劇が繰り広げられる中、事件とは別の陰謀が進行していることに気づく。

一体何が起きているのか?そしてデイビスは犯人を捕らえ、真相を掴むことができるのか?

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警察という組織と、警察に属する個人の話として。
警察が掲げる【正義】と個々人が掲げる【正義】は一致しない。警察という組織は社会の最大公約の利益、幸福を守るために正義を執行する。おおむね、社会の利益とはそれすなわち自分の利益にもつながるので、たいていの場合は問題ないのだが、食い違う場面は必ずある。では、もし自分がその場面に直面したらどうすればいいのだろうか。

このボーダーラインを越えるか越えないか、が異常者と一般人とを分ける閾値だ。
この越えてはならない一線を越えた映画は山ほどある。社会の正義に従うか、己の正義に従うか、揺れ動く様は見ていてハラハラするし面白い。もちろん最初からそんなの関係ないとばかりに、己の価値基準判断を絶対のものとし、行動する映画もある。

そしてこの21ブリッジの主人公。
彼は前者。己の信条に従い正義を下す。ただし、とても理知的で平明なため一目でそれとはわからない。映画がすすむにつれてその様が徐々にあらわになっていくのだが…もうチャドウィック・ボーズマンがすごいです。よく演じきったな、と。一歩間違えればただのクレイジーサイコ野郎に陥りかねませんが、ぐっと踏みとどまり、あくまで私たち観客から見える地平にいます。これはもちろん役者さんだけでなくシナリオ、演出の力もあるのですが一番の要因は彼です。ブラックパンサー見たときも思っていたのですが、どことなく気品があるんですよね。生来の物だと思いますが、頭の良さを感じます。それなのに色香もあってくらくらしちゃいます。いや…いやらしさは感じませんよ!そうではなく同性の目から見ても魅力的な人ってことです。
上司をにらみつけるボーズマン!コートをはためかせ走るボーズマン!銃を突きつけ犯人と対峙するボーズマン!母親をいたわるボーズマン!すべてがいいです。

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かっこよすぎませんかボーズマン (公式サイトより)

 

ちょっと話が戻りますが、己だけの正義を持っている人、他の映画の行き過ぎちゃった人はもう同情とか理解とかできないんですよね。だけど21ブリッジのデイビスは違います。理解できちゃいます。それがいいとか悪いとかという話ではなく、私たちとの距離が近いので、その分入れ込んじゃうんですよね。

ラストシークエンスがまさにその彼の内面だったり信条を感じさせるものでこれがいいんです、これが…信念と信念のぶつかり合い、互いに譲れぬものがある。であるならばどうするか。ぶつかり合う男たち。勝者と敗者は存在するけどそれだけでは片づけられない浮世のつらさ。何回でも見れそう。

説明描写も少なく、物語やアクションの中にそれとなくまとめて映してくれるので、とてもテンポがよかったです。このアクションもするところはしているし、銃撃戦も思ったより派手でした。ちょっと驚いた。デイビスとマイケルの全力の追いかけっこのシーンはハラハラしました。大の大人が全力を出して走る姿もいいもんです。
他のシーンもみなアクションが物語を止めず、きちんと緊張感を保っており、ラストまで一直線でした。だからこそ90分という長さなんだなと思います。でも、90分とは思えない満足感です。

ボーズマンを見るためだけにもう一度見に行ってもイイです。というか今のところ今年の映画でベスト1です。でも予告編だとあまりにもボーズマンフューチャーされすぎててちょっと苦笑してしまいました。あと犯人役の片割れ、彼もイイ。