狐が風鈴を鳴らす

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『オービタル・クラウド』個人的な話

まず陳謝。「三冠達成と言いはするが其の実我が心胆を律動させること叶わぬだろう」続けて曰く「荒筋を読んでも引き込まれぬ。良いものは荒筋の時点で魅力的なもの」さらに曰く「宇宙が舞台、しかし月よりも遠くに行かぬさいえんすふぃくしょんに目新しいものは見つからぬだろう」

ごめんなさい。生意気言ってすみませんでした。

おもしろかったです。ヘッドバンキングしながら読みました。ありがとうございます。

『オービタル・クラウド』というこの作品〈第35回日本SF大賞〉〈第46回星雲賞日本長編部門〉〈ベストSF2014国内編〉の三つにおいててっぺん獲っています。前々から気になっていた作品でした。「こんなにいっぱい賞とってるやがる昰……」なのに冒頭のようなツンデレみたいな態度をなぜかとっていて今の今まで読んでいませんでした。はい私捻くれ者です。

ある日、本屋に行くとこの『オービタル・クラウド』がありました。以前なら本棚の前で少し逡巡したのち他の本を手に取っていたでしょう。しかし今、目の前には“著者サイン本”がありました。少し逡巡します。ここまでは以前と同じですが、その後カゴに入れました。「コリャしょうがねぇよ、おいらの負けさ……」

 

サインイェーイ。今自分が手にした本を作者も手にしたんだなぁ。なんか不思議。 

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あらすじ

2015年イランのテヘランでは1人の研究者が紙とペンを武器に研究を続けている。そして今一つの気球を空に放った。

2020年日本。流れ星発生予測サイトを運営する木村和海は先日打ち上げられたサフィール3のロケットブースターの2段目の高度が何故か上昇していることに気づく。

アメリカのケープ・カナベラルからは民間宇宙ツアーPRプロジェクトが進められそのためのロケットが打ち上げられた。

同じくアメリカのシアトルでは日本人と朝鮮人が穏やかではない会話している。

宇宙規模のテロが今始まろうとしていた…… 

 

群像劇の醍醐味は点と点が線になり、その線が一つの絵を描くところ。今回は絵ではなく、糸になったというべきか。いろいろな人たちが登場します。場所もあっちにいってこっちにいって、と主人公がなかなか主だって出てこないので(主人公なのにね)少し焦れったくなるかもしれない。しかしその分動き始めた時の疾走感は心地よく、また没頭できる。うひょーいってね。最終的に一つのお話に収斂させる手際は圧巻の一言。思わずまだ読んでいないのに次のページを繰りそうになり、その度に自分の頬を打って制止します。「ダメよ!ダメダメ!」

さて『オービタル・クラウド』はどんな小説なのか。

宇宙でのテロを趣味がきっかけ(半分仕事)で知った木村和海という普通の人がそのテロを阻止する話です。

「オイオイ普通の人がそんなことできるわけないだろう?」その通り。しかし今は世界中繋がりまくってる時代です。電波ビュンビュンです。和海も一人で阻止するわけではなく、地球上のあらゆる場所にいる人から手助けしてもらいます。ある意味今だから書けたSFといえるでしょう。

一昔前ならテロを阻止する主人公なんていうのは超人でなければなりませんでした。ジェームズ・ボンドしかりイーサン・ホークしかり、はたまたジョン・マクレーン(こいつは違うか?)しかり。超人でなければそんなことできませんでした。今は?遠い場所にいても連絡が即時に取り合えるような世の中ではスーパーマンは不要です。必要なのはスペシャリスト。一点突破です。

お互いに足りないところを補いながら作戦を進めていく。これが現代のアクション大作です。この『オービタル・クラウド』もその例に洩れず、スペシャリスト達が自分の矜持をかけてテロ阻止に取り組みます。

世界とか国とかそんな大義の為ではなく、各々が己の誇りの為に立ち上がるのです。うーん泥臭くていいなぁ。個人的にはダレル軍曹が好きです。

 

とても現実味がたっぷりなSFです。そしてこの『オービタル・クラウド』嘘上手なSFです。これあるかも、と信じてしまいそうです。こういう本を読む時に私は”どこで嘘をついているのか”見極めようとします。(性格悪いなぁ……)今回のこの本では、スペース・テザー(テロの根幹を占める所謂“兵器”)は実際には飛ばせない!と見ました。

ローレンツ力という物理の初歩的な原理の応用でこのスペース・テザーは自在に動くのですが、単純すぎるものほど嘘がつきやすい。なんやかんやで飛ばす為には数々の障害(小説には描かれていないやつ)があるのではないか?と推測しました。機会があったらそれが本当かどうか調べてみよう。

ラズパイもあそこまでの仕事が本当にできるのかな?それはできるのか。

そしてもう一つこの小説で好きなところは、欧米人が主役ではないところです。

主人公は日本人、テロを企てるのも日本人(北朝鮮サポート)、そのテロの根幹技術を発案したのはイラン人。アレ?世界規模のテロなのに?勿論アメリカという大国が物語の上で大きな役割を果たしていることは間違いありません。でもSFというジャンルで、世界規模の小説で、これをやってくれた作者に対し拍手の嵐を送りたいです。なんか嬉しいです。よっ太洋屋!

この本を読んだ私はとりあえず自分のスマートフォンにロックをかけました。セキュリティって大事ね!