常々感想記

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『夏の夜の夢』間抜けたちの狂想曲 

愛すべき間抜け。間抜けかわいい。

 

あらすじ(夏の夜の夢)

妖精の王とその后の喧嘩に巻き込まれ、さらに茶目な小妖精パックが惚れ薬を誤用したために、思いがけない食い違いの生じた恋人たち。妖精と人間が展開する詩情豊かな幻想喜劇。

 

アテネの王様シーシアスの結婚式が間近に迫っているところから物語は始まります。王様に訴えでる老人イジアス「娘がわたしの認めない男と結婚するっていってるのでなんとかしてください」。家庭内で解決しようよ、ねぇ。王様「娘よ、それはいかんぞ。決められた男と結婚するか、それがいやなら尼になれい」と言います。

それを聞いた今でいうと婚約者デメトリアスはしてやったりといった体。いわゆる間男ライサンダー。彼はどうしても結婚したいので駆け落ちすることを娘ハーミアに提案。ハーミア「それがいいわ!」ずいぶん気軽に駆け落ちを決めるねー。そしてデメトリアスを愛しているヘレナに、「駆け落ちすっからデメトリアスはあんたのものにしていいわよ」ハーミアは言います。おおう、すげえなこの女。ヘレナは「クゥッ、あたい泣いちゃう!」でもわたしの愛している人には幸せになってほしいとデメトリアスに「あいつら駆け落ちするわよ」と伝えます。

そして待ち合わせ場所の森でこの四人は妖精の喧嘩に巻き込まれ翻弄されるのですが……。

これが本筋です。

でもここにはでてこないいわゆる脇役たちがとてもおかしい。彼らは数日後にせまるシーシアスの結婚式に劇の出し物をしようとその森で練習をし、彼らもまた巻き込まれる。

正直、四人についてはハイハイそうなるよねーと先が少し読めてしまう。劇で見ればまた違うのだろうが、活字でよむとやけに気障ったらしく熱に浮かされすぎててあまり笑えない。

そこで彼らです。普段は職人として働いている彼らが一念発起、劇やったるぜ!うまくいくはずもない。彼らのうちの一人は妖精の后に惚れ薬のせいで惚れられてしまいますがそれは放っておいて、この劇を王様たちに披露する場面です。これがイイ。

劇中劇として王様たちがわたしたちの心情をうまく言い表してくれます。的確かつ容赦ないです。しかし当の本人たちはいたって真面目にやっているのだからなおさらおかしい。劇の売り文句というべきものが「若きピラマスと恋人シスビーとの長たらしく短き出会い、涙ぐましくもおかしき一場」。どうやってこんなもの実現できるのだろう?

強引な力技でそれをやってのけております。セリフはたったの10しかないがそのセリフ1つ1つが長たらしく、ピラマスが自害するシーンで涙は出るがそれは笑いすぎて涙が出る。確かにコイツァおかしいや……。というのがわたしの感想でした。

劇の観客としての王様たちは私たち。私たちをまた私たちがみるという三重構造。重なり合った劇は視点のありかを考えさせてくれます。王様たちも「この劇おかしいぞ」と言いますが、その王様たちがしていることもわたしたちからしたら相当おかしいことで「この劇おかしいぞ」と言います。

めんどくさいこと言ってますが、要は鏡をみて笑ってる自分を笑ってる感じ。それって変だよね。おっかしーい!

いたずらな妖精パックちゃんはそばにいたら退屈しないで済みそう。

 

シェイクスピアは今まで悲劇しかよんでいなかったからこの喜劇は新鮮で面白かった。これは劇で見たいなぁ。劇でみたらまた違う感想に間違いなくなると思う。聞いた方が面白そうなセリフで一杯だったし。

 

夏の夜の夢・あらし (新潮文庫)

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