常々感想記

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ホワイト・ジャズ

暴力/腐敗/権力/政治/麻薬/密告/恐喝

言えることはひとつ。

エルロイはぶっ飛んでいる。

 

吐くのは保身のため、遠慮なく自らのために情報を売り流す。ここじゃあ誰彼だって俗に言う犯罪まがいのことはしているんだ。そんなところで我が身を大切にしなければ何を大切にするんだ?

というような1950年代ごろのロサンゼルスが舞台。

 

あらすじ

番犬の目を喉まで押し込み、その家の娘のパンツに精液を飛ばした侵入者=キチガイ。被害者は市警と癒着した麻薬密売人。事件に異常な執着/執念見せる警察上層部はクライン警部補に捜査を命じる。クラインが探り当てたのは目も当てられない悪辣非道な行為の数々。陰謀/暗闘。つまり市警とFBI。

自らも非道と暴力に手を染めているクライン。錯綜する思惑。走る電光。きらめく熱。麻薬/暴力。正義/倫理。

事件の行き着く先はー

 

クラクラします。慣れるまで/慣れた後も?

非常に独特の文体から繰り広げられる光景に脳髄は眩み、感覚は鋭敏に。いまこの文も/や=を使って書いていますが、本物=エルロイはもっと格別。ぶつ切り状景、腹を探り合う会話。刹那を切り開く文体だ。

特徴的な文体に目がいってしまうけれど、その中身は特濃な汚濁。この中身こそエルロイをエルロイたらしめているのだろう。そもそもこの”エルロイ文体”とよばれもする文体はデビュー当初からのものではなく、いくばくかの時を経て編み出されたものらしい。魅力の一端を担っているのは確かだが、それが全てではないということだ。

ブラック・ダリア、ビッグ・ノーウェア、L.A.コンフィデンシャル、と続いてきた。ホワイト・ジャズは「暗黒のLA四部作」の四作目。前述の作品を読まずとも、単体で成り立ってもいる作品だから十分堪能できる。未読の場合、逆にエルロイ文体に打ちのめされるかもしれない。はい、うちのめされました。これがエルロイ初読でした。

L.A.コンフィデンシャル”に関しては映画化されているのでそれを見たことはあった。これもいい映画なので是非機会があったら見てみるのをおすすめする。ラッセル・クロウのいぶし銀っぷり、ケヴィン・スペイシーの飄々としながらも自分のポリシーを守る男。この二人がいい。男臭い映画です。

その映画の内容から、相当な暗黒小説なのだろうと思っていた。ある意味正しかったがまちがってもいた。突き抜けすぎていて現実感を感じなかった。

冒頭早々に、連邦の大切な証人を窓から突き落とすクライン。えええええ!?新聞の記事には「連邦側証人が墜死。証人、自殺を宣言『ハレルヤ、おれは飛べる!』」思い切り笑ってしまった。けれどこんなもんは序の口にもすぎなかった。最初そのあまりに独特な文体に引っかかりながら少しづつ読み進めていくと、いつのまにかだんだんと読み進めるスピードが上がっている。5,6ページ読むのがやっとだったのが(本当に最初は苦労しました)悠々と100ページ長を一気に読むようになる。その世界にのめり込む。のめり込んでからは早い。裏切り、暴力、麻薬、盗聴、賄賂……etc

ぼくはハマったが、これには嫌悪感を示す人、受け付けない人が多くいるだろうな。

あまりに狂っているのだ。何かに突き動かされるかのように行動する人物たち。止まったら死ぬ。ゼンマイ駆動の人形か。そしてヘマをしても死ぬ。生きていくには片隅で震えながら惨めに泥をすするか、誰彼構わず踏み潰し、血で血を洗い、体が怨嗟の声でいっぱいになる程、冷徹な知恵と策略を駆使して、成り上がるか。

そしてそれを表現するために必要だったのが”エルロイ文体”だったのだろう。

嵌まり続けるのが怖くなる。

 

 

ホワイト・ジャズ (文春文庫)

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