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グレン・グールドは語る、が何を言っているかぼくにはさっぱり

1974年8月15日発行のものと、次の8月29日、二号に渡ってローリング・ストーン誌に掲載されたグレン・グールドへのロングインタビュー記事に、補填や資料を加えた本。

グレン・グールドが自らの音楽、思想や理念をつまびらかに語るのですが……。

 

グレン・グールドは奇矯なステージマナーや、奇怪なライフスタイルで有名なピアニスト。彼は「ピアニストではなく音楽家かピアノで表現する作曲家だ」と主張している。天才と呼ばれる。彼は音楽に新たな解釈、演奏方法をもたらし、与えた影響は非常に大きいとのこと。

ぼくも、あるきっかけでこのグレン・グールドの音楽を聞いた時、うまく言葉にできないけれど、衝撃を受けた。だから本を読んでもみたのだけれど。

 


Glenn Gould - 37. Serge Prokofiev, Piano Sonata No.7, Op.83 [ 1966 ]


Glenn Gould : Bach - Keyboard Concerto No.1 D minor BWV 1052


Glenn Gould- Turkish March

 

彼の演奏でもっとも有名なのがバッハの”ゴルドベルク変奏曲”でしょう。それがきっかけでセンセーションを音楽業界に呼びました。1955年録音のものと、1981年録音のものがあります。1955年のゴルドベルク変奏曲は体全体がうずうずとしてしまう、非常にキレのいいものです。一方、年を経て演奏した1981年版はゆったり。一音一音を伸ばし、音を空間に漂わせて演奏しています。

ぼくがはじめに聞いたのは1955年版のゴルドベルク変奏曲でした。

だったらそのリンクを貼れよ、と思うかもしれませんが、どちらを最初に聴くかは自分で選んだほうが面白いかな、と思うのでゴルドベルク変奏曲ではなく、ほかの演奏をいくつか。

 

演奏する時に体を揺らし、鼻歌を歌う。演奏する際座る椅子は父親がつくったものしかダメ。指揮者は怒る。視線は彼方で、ピアノに触れている手は彼の意思とは関係なく動いているみたいに見える。手は自立し、体はその駆動装置。矛盾しているがそんな印象。当時こんな弾き方をする人はいなかった。いまでもいないのではないか。

そんな彼です。言ってることもトンでる。

インタビューということでQ&A形式で進んでいくが、ぼくはそのQすら理解が追いつかない。これはぼくの知識がないためだろう。音楽に関しては門外漢。

そしてAには暗喩がいっぱい。固有名詞いっぱい音楽技術用語いっぱいで読むのに骨が折れた。でも面白かった。「情緒的内容と構造的形式はテンポの速い、遅いには左右されない」とかビートルズに唖然とした二つの点を挙げ、その一つは、作品自体の完成度に触れて「ビートルズが力を尽くしたと同時に、本当のところ、彼らが仕上げたとは言えない」と言いのける。ひぇー。

刺激的な発言の数々。現にローリングストーン誌には多くの投書が寄せられたそうだ。このイカれ野郎はなんだとか、そういった類のこととか、賛成できる部分もあるが、おかしい部分もあるとか、とにかく意見がたくさん。頭にショックを与えてくれる。それこそ雷に打たれたように。それが楽しいのです。

クラシックは聴くことは聴くけど、音楽も自分がいいと思った物しか聴かないので詳しくない。それでもなんかとんでもないこといってるんだろうなと思わせる。

グールドはモーツァルトを演奏せず、また嫌っていると言われている。モーツァルトに関しての質問に関しての答えの中で

初期のモーツァルトは本当にいい。はい、話はそれでおしまい、なのです。

といってのける。また中略しつつ続けると

モーツァルトは、自分の調子をつかんでからというものの、全て同じ抜き型で音楽を作りをしていたような気がします。芝居作りの職人としては比較的成功したけれど、彼の器楽曲は急速につまらなくなっていった、と思うのです。

 わひゃひゃ。こやつ言いおる。

 

グールドにぼくは共感できるところがある。それは演奏会の否定。グールドは、32歳のとき演奏会から引退し、その後はレコーディングだけに専念する。演奏会嫌いだったのだ。まあしかし、ぼくの理由は単なる人ごみ嫌いに端を発しており、そこから紆余曲折あり、演奏って一回きりだろ?それってダメじゃん、となります。グールドはぼくの後付け理由が主なよう。また演奏会になると、批評家どもが手ぐすねひいて失敗を待っている、それがいやだ。浅薄だ。批評家のために演奏するのではない。というような意のことを。もともと人嫌いだったのも理由の一端?

グールドに親近感を持つぼく。そうだよ、演奏会なんてくそくらってしまえぃ。

演奏会から引退した彼はめちゃめちゃ録音に凝り始めます。レコーディグディレクター、もといエンジニアよりこだわるのではないでしょうか。音楽に関することは妥協なし。

刺激的な本。

「あいつは変人だが天才だよ」

 

 

グレン・グールドは語る (ちくま学芸文庫)

グレン・グールドは語る (ちくま学芸文庫)