深夜の人 結婚者の手記
日記や手紙、詩歌、随筆など集めて編纂した本。
素直で実直、だというのがぼくの室生犀星への印象。
彼の作品にでてくる人たちは、生きているというか鮮度が高いというか。自らの感情にいちいち理屈をつけたりしないところが好きだ。それにこの作品集は随筆を中心として編まれているからますますその印象が強まる。開けっぴろげだなぁ。
”結婚者の手記”なんかは随筆風の小説なのか、それとも本当に随筆なのかわからないほど。自らの経験をどれほど書き出しているのだろう。”母を思うの記”では作品で取り上げることの多かった母、幾たびもモデルになった母に謝辞を捧げている。
悪いことをしていると思いつつも書かずにはいられなかったのだろう。まさに作家の鏡と言える。すごいな。罪悪感に苛まれながら書くのは難しい。
芥川龍之介と親交が深く、彼が自殺した時に”生き方を全うした”との言葉を残す。彼は芸術家肌だった、と。晴朗な人だった、と。芥川と比べて自分のことを矮小だとか、俗物だとか卑下している。「芥川君は私のことを軽蔑している」とまで書く。芥川が犀星のことをどう思っていたのかはこの本からはわからないが、犀星のことを見下しつつ交際を続けるような人物が、自殺をするとは思えない。それは犀星の勘違いであり、謙虚でいようとした彼の姿勢から出たものだろう。
文人同士の交流が盛んだったこの時期、芥川の死が与えた影響は大きく、親しかった犀星についてはそれが顕著だったようだ。「最後の清浄さ」犀星は芥川の葬儀の日の新聞に書いた。このころの犀星の心の動きようが詳細に書かれている。
自らの気質や性分について深く、いろいろなことを考えていたみたいだ。敵わないなぁ。見習いたい。