もしもし
この本を読むときに気をつけること
1つ 他人の目が届かないところ、なるべく自室で読むこと
1つ 近くにティシュもしくはタオルと用意しておくこと
1つ バカになること、見栄や体裁は捨てること、思いきり笑うこと。(このためにも1人でいる時に読むがよい)
素晴らしくバカバカしいけれど、素晴らしく面白い。男と女の大切なお話。
ニコルソン・ベイカーの「もしもし」です。
あらすじは一行で片付く。
あらすじ
アダルト・パーティー・ライン(日本で言うテレクラみたいなものか?)で出会った男女がひたすら会話をしている話
ほんとうにこれだけだから驚き。よくまあここまで風呂敷広げられるなぁ。
もちろん会話はエッチなことが大半です。エロいではなくエッチです。すこぶる爽やかだからです。蠱惑的とか妖艶とか淫乱いう言葉からは程遠く、これらは色で言うならもう紫みたいだけれどこの会話はさくら色です。話してることをよく考えればこいつら変態だ!と思ってしまうかもしれないけれど人はみんなこのくらいの妄想、空想はしているのではないのだろうか。でもその中身がすごい独創的と言える。すくなくともぼくはこんな妄想できない。(実際にちょっとニッチな妄想をしてみようとしたがありきたりのものになってしまった)
ユーモアがたっぷり利いた2人の会話は”聴いて”いてとても楽しい。これは訳者の力も大きいだろう。原書が英語でスラングもたっぷりであったろうと容易く想像できる。けれど一度もつっかえることなく読み通すことが出来た。
2人の会話を盗み聞きしているかのようなこの本だが、決して描写不足ということはない。むしろ微に入り細を穿つ描写をしている。これも会話上で。それが妄想の助けになるのだ。ぼくは、という一人称からわかるだろうがこれの記事を書いているのは男だ。だからぼくは”彼女”が受話器の向こうで何をどうしているのか妄想しながらページをめくったりもする。本当に電話をしているみたいに。
短いやりとりだが
男が彼女に「どんなブラ?」と訊くと彼女が「ふつうの。白くて何の変哲もない、いわゆるふつうのブラ」と答える。ぼくは白くて何の変哲もない、いわゆるふつうのブラを想像し妄想し、男が「うーん、いいねえ!」と言うのとぼくはシンクロする。
電話線の向こうの彼女は今、白いブラをしてぼくと会話をしているんだ!興奮しちゃうね!というようにだ。無論シンクロするばかりではないが、ぼくはぼくで楽しむのだ。
時に盗み聞きしているみたいに、時に彼女と会話しているかのように。
ずっとにやにやしながら読んでいた気がする。このニコルソン・ベイカー、会話のセンスは抜群で、頭にこびりつく言葉を吐く。いくつか紹介しよう。
まず男編。
- 「ぼくはいま奇跡を経験している」
- 「エロスは真実に優先する」
- 「どうしてまだイきたくないの?ぼくなら一向にかまわないよ」
女編
- 「わたしはたまに”わななかせる”って言い方をするわ」
- 「ちょっと待って。そうね公式発表的には裸と言っていい状態ね。(後略)」
- 「あん」
短いもので選んでみた。
どうしたらこんな感性を得られるのだろうか。アメリカと日本では環境が違うのもあるだろうけれど、うらやましいなぁ。
ぼくもこんな電話してみたい。夢物語だろうか。
- 作者: ニコルソンベイカー,Nicholson Baker,岸本佐知子
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 1996/08
- メディア: 新書
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