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スミス都へ行く

相も変わらずのフランク・キャプラ映画。喧々諤々の議会での演説や討論が見どころ。英語での怒声や哄笑、迫力あります。大の大人が唾散らして必死に論を振う姿はどこか滑稽ですが、魅力あり。そしてなにより脇を固める役者がいい味出してます。主役のスミスを演じるのはキャプラ映画おなじみのジェームズ・スチュアート、いい男。

 

フランク・キャプラ監督の作品は大好き。

素晴らしき哉、人生!」で知って、それから機会を見つけて少しずつ見ています。良い映画作ってます。アカデミー賞三回とってるバケモノでもあります。

そしてこの「スミス都へ行く」です。

いやぁいい映画みた。

 

あらすじ

アメリカのある州の上院議員が突然亡くなった。

すぐさま代わりの人物を選ばなければならない、が問題がある。この州のもう一人の上院議員ペインは地元有力者(新聞社持ち?)のテイラーと悪癒着していたのだ。ペインはテイラーに協力する代わりに支援してもらっていた。

そんなテイラーが次にしようとしたことはダム建設事業を持ってきてそれで儲けようということ。あらかじめその建設予定地周辺を購入し、いざ着工となった時高値で売りつけて儲けようというのだ。

新たに選ぶ議員は言うことを聞く傀儡が望ましかった。もちろんダム建設の法案を通すためだ。しかし、候補者はいるが地元の反発等で人選が難航する。

そして色々あってスミスという地元の青年団のリーダー、真面目で正直が取り柄で志高いが政治に無知な人物が選ばれた。無知な分、言うことを聞くだろうと見越してのことだ。

スミスの父はペインの親友で理想を語り合った仲だった。スミスは父の親友であるペインを尊敬している。ワシントン行の列車の中で子供のように目を輝かせながら理想を語るスミス。

ワシントンでは無知ということで周りを騒がせる彼。馬鹿にされ、議員や記者からはまともに相手にされない。「腰巾着が!」と。お前はただ言うことを聞いているだけじゃないか!と。

そこで、秘書サンダースの力を借りて法案を作って提出することにした。何か自分で行動を起こそうと。

その法案が、テイラーとペインのダム建設予定地に青少年教育キャンプ場を造るというものだった。

ペインとテイラーは大慌て。ペインはスミスにことを知らせず処理しようとする。しかしスミスは秘書サンダースから不正のことを知る。サンダースも彼らに嫌気がさしていたのだ。

ペインさんが…と最初は信じなかったスミス。しかしそれが事実だと知ったスミスは、テイラーから癒着の誘いを受けるも断る。

「つぶしてやるぞ」テイラーは言った。

そして理想を掲げるスミスと現実の戦いが始まる。

 

 

いや、ほんと良い映画。

すごく解りやすい映画。

脇役も素晴らしい。

彼らに寄り添うようなカット割り。具体的には1対1のバストアップが多い。スミスとサンダースだったり、サンダースとディン(サンダースに惚れてる記者)だったり。スミスとペインだったり。その間はカメラは動くことなく、じっと会話をしている2人を写す。そして切らないんだよねぇ、カット。一つのシーンをずっと同じ視点で見せてくれる。これは今の映画にはない魅力。じっくり人物を見ることができる。

で、このカット割りが脇役の魅力を見せつける。

まず、ペイン上議員役のクロード・レインズ。この役どころは、かつて理想に燃えていたが今は現実に妥協することを知り、諦観の念を覚えた政治家という、スミスが理想を捨てたらこうなるのではないかという姿、そう、未来のスミスかもという人物だ。このかつて理想に燃えていたペインがテイラーの不正に手を貸している。スミスがテイラーの邪魔になり、始末しようと2人で相談しているシーン。

この2人のシーンは是非注目してみるべき。

ペインはかつての親友の息子であり、誠実なスミスを罠にかけることに躊躇う。テイラーはペインに、手を貸さないと次の再選は保証できないと迂遠な脅しをかけるこのシーン。ペインの苦悩がにじみ出ているようだ。目線の動き、体の揺らぎ。テイラーの身振りとは対照的にあまり動かない。動かない演技ができる人だぁ。

終盤のペインが口角泡飛ばし論を振うシーンは老年の迫力が出てる。

つぎに上議院の議長役のハリー・ケリー。

かれはあくまで議長だ。議長とは何をしなければならないか。議事進行だ。円滑に議会を進め、滞りなく政治を行わなければならない。スミスに対しても、自らの役目に応じた対応をする。しかしその眼差しはどうだろうか、幼子を見守る親のようだ。時につきはなし、ときに寄り添う。これを議長をいう枠からはみ出さずにしている。あったかい。凍える寒さの中、飲むレモネードみたいな、人心地つくあったかさだ。

スミスとの距離を決して図り間違えることのない、熟成された人物。

こんなおじいちゃん欲しい。くれ!

 

脇役に焦点を当てたが、勿論主役のスミスは忘れてはならない。

彼の表情。理想が現実に叩きのめされた時の表情。カエルを潰したような顔。

彼の魅力は他の映画を見て十分に把握しているつもり。それは、「普通っぽさ」だと思う。普遍的というか、映画という媒体を通して見た時に、丁度身近に感じることのできる顔立ち。イケメンですよ勿論。で「普通っぽい」上にさらに「人のよさそうな顔」とくる。その人がスミスをいう人物を演じているんだ。間違いないでしょ。

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ジェームズ・スチュワート

 

このスミスですが田舎者です。ほほえましいです。

「子供のお守りなんてしたくないわ!」と彼の秘書のサンダースも最初はそういっているくらいです。でも憎めないんですよ。彼の行動に裏がないことがわかってるから。だからこそ周りの人物はスミスに腹が立つし、愛おしい。

全編通してほほえましいです。笑えもします。

そしてクライマックス。議会でのスミスの演説。またペインの反駁。迫力あります。大声で、響くように、胸を張りながら話す。彼らは政治家なので話しぶりが堂に入っていますよ。すごい楽しいところです。存分に楽しみましょ。英語なのでどんな語句で話しているのかまではわかりませんでしたが、お堅い言葉使ってわめいているんだろうなぁと思う。大人の喧嘩みたい。

「ふだぁjぁmこあvhじあほはんヴぉあhヴぉあjヴぁヴぉいあはおvはおいう!」みたいな。癇癪起こした子供みたい。

また議会のシーン。あの控室みたいなところで大人がひしめき合って、わいのわいのしてるのも楽しい。ああいうのも好き。老人と言っていいような彼らが子供みたいにワイワイ騒いでいるのはちょいと滑稽ですし。

おいおいスミスとどっちが子供なんだい、と訊きたいですねー。

「譲れ!」

「譲りません!質問だったら受け付けます!」

「いい加減にしろ!譲れ若造が!」

「譲りません!」

「ほいうあhヴぁbbヴぃあhヴぃあんlbなkばば」

こんな感じのやりとりします。これを国会でやるんですよ、面白くないわけがない!

 

満足感がとてもありました。エンディングがあっけないとか現実離れしてるとか言われるかもしれないが、そんなことは本質ではない。結末なんて些細なこと。この映画は理想を捨てない男と現実との話。スミスが挫けそうになりながらも決意して議会で立ち上がった時、すでに終わってもいい映画だった。そこから後は甲論乙駁。とことんまで笑って見ればいい。ハッピーエンドはキャプラおなじみのこと。いつも通りだ!と思えばいいのだ。

終わり方よりもっと大事なものがある。