常々感想記

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「屍者の帝国」映画感想

公開初日朝一番で観に行っといてなんですがつまらなかったです。つまらないというより退屈でした。退屈ですけど楽しめました。

この映画は娯楽映画です。それ以外ではないです。ただの娯楽映画です。何かのメッセージ性だと訴えかけるものだとかは一見ありますが、まごうことなき娯楽映画です。

 

監督は牧原亮太郎、この作品が監督作二作目。一作目は「ハル」一時間程度の中編アニメーション映画です。あんまり覚えていませんが、風景に凝ってるなぁ、といった印象を持ったはず。今作の見どころも多くが風景にあります。というかそれがほぼ全て。美術監督は竹田悠介。神山作品に多く関係しているんですねー「攻殻」や「東のエデン」また「tt」や「有頂天家族」のPA作品も。どれも背景に力が入ってる作品だー。みんな背景ちゃんと見よう。

 

Project Itohと銘打って、三作品三か月連続劇場公開という企画のトップバッターを務める今作。まだ他の作品見れていないから何も言えないのだけれど、一番伊藤計劃っぽくない作品になったのでは、と。原作が円城塔との合作であるし、それも当たり前なのだけれど。

 

で、あらすじ。

 

必要なのは、何をおいても、まず、屍体だ。

そして疑似霊素、それを霊素書込機をつかってインストールする。電源となるのは十年ほど前に発明され、安定的な電流供給を可能としたルクランシェ電池。正極が二酸化マンガンと炭素を混ぜたもの、負極に亜鉛電解質として塩化アンモニウムの水溶液。

首の後ろ、屍体の延髄を切り開きそこに霊素書込機を差し込む。これで準備は完了だ。そして、起動する。

パンチカードが次々と読み込まれ、霊素が書き込まれていく。此処まできたらもうすることはない。ただ書き込みが終わるのを待つだけだ。そしてすべてのパンチカードが読み込まれ、掻き込みが終了する。

「おかえり、フライデー」

ロンドン大学の医学生、ジョン・H・ワトソンは親友の屍体を墓から掘り起し、自分の手で親友を屍者化した。屍者化した親友の目の焦点はあっておらず、ワトソンのことが見えているかわからない。立って歩いてみさせたり、ペンを握らせたり、動作確認をする。特に問題はなさそうだ、屍者としては、とそのことがわかったその時、部屋に男が乱入してくる。

その人物はシルクハットを被っており、右目は眼帯で塞がれている。コートを着て悠然と佇んでいる。白髪の髪に、立派な紳士髭。

「個人で勝手に屍者を甦らせることは禁じられている。そのことは知っているな」

その人物は大英帝国諜報機関、ヴォルシンガム機関のトップ、Mだった。

しかしこのまま牢獄に繋がれるのはもったいない、個人でこれだけのことができる屍者技術者は貴重だ、とMは言う。

「どうだ、取引をしないか」

そしてワトソンはヴォルシンガム機関の一員として、ヴィクターの手記――最初に屍者を甦らせたヴィクター・フランケンシュタイン博士の手記、そこには人語を話し、魂を持つとされるザ・ワンを生み出した究極の技術が記されているという――を追うことになる。それはただ指令だからという理由ではない。親友を甦らせてまで求めたもの、魂の存在、その手がかりがその手記にある。

そしてワトソンの世界を股にかける冒険が始まる。

 

思わせぶりな台詞が連発されるこの映画ですがもう一回言います。この映画は娯楽映画です。だってそうでしょースパイで、セカイを駆け巡り、陰謀に巻き込まれ、そして立ち向かう。これが娯楽映画でなくてなんだというのか。魂だとか意識だとか屍者とかそんなものに振り回されてはいけません。

まず旅の先々の風景を楽しみましょう。特によかったのはアフガニスタンの夜空とアレクセイと会談した部屋。よくここまで広がりがある夜空を表現できるなーすげー、そしてアレクセイたちと会談した部屋はワトソンがそこを立ち去った後がいい。

そして風景を楽しみつつ、半ば無理やりな展開と、ガジェットを楽しみます。ぱちぱち動くタイプライターとか、馬車とか、ノーチラス号(だっけ?)の外見とか。

色々細かいところも楽しみましょう。ワトソンが杖を使って歩くシーンはわかる人は微笑を浮かべられますし、ハダリーのおっぱいの揺れ具合も見ていて飽きないところ。

最後のクライマックスは勢いに身を任せましょう。考えてはいけません。話自体の内容を考えるのではなく、鈍い緊迫感(それって緊迫感て言えるのかな)と映像を楽しみます。そして最後、示唆に富むかのような終わりです。ここでは雰囲気を楽しみます。エッセンス、上澄みを掬い取れたら十分だと思います。

そしてエンドロール、はい帰ってはいけません。最後で席に座って、オマケを観ましょう。オマケではにやにや出来ます、保証します。

 人間ドラマだとかそんなものはうっちゃって下さい。

以上。

 

時速60キロほどのジェットコースターみたいな映画。話の起伏が少ないです。

場所が変わってドタバタ、の繰り返しなので。クライマックスに向けてもいまいち盛り上がれなかった。重要なザ・ワンの目的がわからんまま最終局面に行くので盛り上がらないっす。そのくせMのせいで大変な事態になってるし。だいたいこのMもなんなんだろうか。端役にもほどがあるのに重要そうな感じを出してます。大塚さんすげーよ。

そしてつまらないと冒頭言いましたが、それはぼくの頭が娯楽映画モードになっていなかったからです。開始して30分ほどしてからようやく気づき、なんとか切り替えました。具体的にどこが娯楽映画なのか。

まったく理解させる気のない情報、とその量。とりあえず提示したよ、あとはどうぞ、と言わんばかりの投げっぷり。また、アクションに一々説明を入れてくれる登場人物。なんて親切なんだぁぁぁあああ。

加えて「人には物語が必要」と劇中で言っているにも関わらず、この映画では物語は重要じゃないです。えー誤解を招きそうですが、ぼくにはそうとしか思えませんでした。それが=つまらない、にはならないのでそこは注意して下さい。

 ぼくが娯楽映画だと思う理由はこんなもんです。

 

一番よかったのは、インドのボンベイでワトソンがハダリーを見ている時、突然爆発したところです。画の構図とカットがすげーよかった。

 

退屈だけど楽しい映画です。

 

原作についても感想書いているのでよかったらどうぞ。

 

cigareyes.hatenablog.jp