常々感想記

本 映画 音楽 その他諸々の雑感を書き連ねるブログ

心が叫びたがってるんだ。の感想

あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない、の監督の最新作

"心が叫びたがってるんだ。”を見てきた。

軽くバレンティンしてます。

あの花と言えば月9かなんかで今ドラマ化されているらしいし、アニメが門外漢な方でもその名前ぐらいは耳にしたことがあるのではないだろうか。

監督の長井さんですが、ぼくにとっては「あの花」の青春感動と「ゼノグラシア」の少々めんどくさいイメージがある。

そのことを頭の隅っこに置いていると青春群像劇と銘打ったこの作品が表層を一枚ペロッとめくるとけっこう辛辣なものが見えてくる。

冒頭、ヒロインの成瀬順が、喋らなく、喋れなくなったきっかけは、幼いころラブホをお城だと思い込み、そこから父親が出てくるのを見たのを母親に伝えて、両親離婚。父親と別れる際「お母さんと仲直りできるよ、わたしも協力するよ」という成瀬に「お前のせいじゃないか」と言われたこと。

青春群像劇と銘打っておいて、最初の最初でこんな話題ですよ!

ぼくにもラブホを「サンリオピューロランドだ!」と親に嬉々として言った記憶があるので成瀬の気持ちは分からなくもないです。お城だお城だ、と騒ぐ気持ち。むしろわかりすぎて痛い。その時のぼくの親の反応は「こんなとこにあるわけないでしょ」でしたが。その通りだよね。小っちゃかったし。

画面のおかげでそこまで苦々しいというか、成瀬がショックを受けたのはわかるけれど、下の話が気になる感じにはなっていなかったけれど、ここでぼくは思ったのです。この監督、スカッと終わらせる気ないな、と。いわゆる典型的なハッピーエンドにする気はないぞ。

主人公たち(青春群像劇なので、メイン四人がそれぞれ主人公のはず)が成瀬の希望で自作のミュージカルをやることになるのですが、そこでも「めでたしめでたしのハッピーエンドはつまらないしな」と成瀬に最初に協力する坂上も言います。このミュージカルの結末はバットエンド、後に多少ベクトルを変えてハッピーエンドの要素も含めたものとなります。

まさにこの映画そのもの。

みんな言いたいことを言わずに、胸の内で終わらせています。そこに言いたいことはあるけれど、話したいことがあるけれど、喋るとお腹が痛くなるほど精神的に縛られている子が出てきて、気づく。言わなきゃわからないことだってあるよ、と。大なり小なりみんな自分に、他人に、環境に縛られて、言うことを決めている。けれどもう一歩踏み出してみよう、と。

しかし冒頭の、口は災いを呼ぶ、もそりゃそうだ、と思う。

 

冒頭で触れた、「あの花」も「ゼノグラシア」も、人と人とのコミュニケーションを描いていたなぁと振り返ると思う。

さっきも言った通り結末は結構半端な感じ。世の中思い通りにはいかないってこと。それがリアルだと思う人は思うでしょう。映画なんだから、と不満な人は不満でしょう。ぼくは青春だなと思いました。ちょっとちぐはぐした感じ。まあ、この映画に単に恋愛要素を期待して見に行く方は不完全燃焼に陥るでしょう。

青春映画を装って、面倒なテーマをさらっと描いた映画でした。

物足りなさはあります。山場のはずなのに盛り上がれなかったり、携帯電話の演出に少し興が削がれた、といったところ。携帯電話が出てくるのぼくが嫌いなんですよね、単純に。

 

ところで‥‥成瀬をボブカットにしてパンスト履かせたのは正解だと、強く思います。家のソファーの上でバタバタしているシーン、良かった。良かったよほんと。よくやった!ぐっじょぶ。成瀬はぼくのツボを見事押さえてくれました。そうか、この映画の価値はここに集約されていたのか……