常々感想記

本 映画 音楽 その他諸々の雑感を書き連ねるブログ

『君の名は。』感じて想う

ネタバレをするつもりはないけれど、書いているうちに内容に触れることもあるかもしれない。頭まっさらで見たい人は読むのを思い止まろう。 Introduction 前作から比べると、その上映規模と広告展開の多岐さに新海誠もここまで来たか、と思わざるを得ない。…

『セヴァストーポリ』戦争

トルストイは軍人だったのは有名な話。その時の経験が作品にも活かされている。では、軍人として何をしていたのか。 その中で最も苛烈だったのがこの露土戦争末期クリミア戦争のセヴァストーポリだろう。この本はトルストイがまだ文壇に名を馳せていない頃、…

『聖ペテロの雪』きゅん

聖ペテロとは? イエス・キリストの最初の弟子とされ、キリストの弟子たちの中のリーダー的存在と目されていた。キリスト教は様々な諸派があり、それぞれに違いがある。その違いで戦争が起きたりしているのだが、この聖ペテロという人物はその諸派のいずれで…

harman/kardon

掃除をしていて発掘されたのは昔イカとタコと呼んでいた物体。一体なんなのか全く分からず、家にあったのもの。10年越しに聞いてみたら「ウーファーとスピーカー」という答え。聞けば納得、見れば得心。 これは初代ではありません、が形は同じ。 harman/ka…

『素晴らしいアメリカ野球』は宇宙一

原題がThe Great American Novel。直訳すると「偉大なアメリカの小説」だろう。そこを『素晴らしいアメリカ野球』と訳した人はすごい。 なにもかもが異常だから異常が異常だと思えないという小説。「偉大なアメリカ小説」という原題からはかけ離れてた無軌道…

7/22『第三帝国』発売記念翻訳者トークイベントにて

ボラーニョの新本の来週発売に先駆け、先行販売と翻訳者のトークイベントが新宿紀伊国屋南店にて開催された。この『第三帝国』は死後発見された遺稿から出版された本で、白水社で刊行中のボラーニョコレクションの中では一番長い本である(野生の探偵たち、2…

『伯爵夫人』erectio

声に出して読みたい日本語。次々と繰り出される淫語は小気味よく笑いを誘う。伯爵夫人とは何者なのか。活動写真(映画)を揶揄しつつ小説の構造自体もその揶揄されている通りなのではないだろうか。 あらすじ おっぱいいっぱいおまんこいっぱい こんな笑劇だ…

『足摺岬』

寂しいのは自分をわかってもらえないし自分でもわからないから。理由は言葉にならずただ己の心の中で形を持たず、ふわふわとしている。 言葉にならない気持ちが涙になり慟哭になり、岬へと足を運ばせる。「死ぬ」ということは解放を意味するのだろうか?いや…

『美濃牛』(みのぎゅう)

どこかに置いていないかと探し続けて数年。もちろん古本屋にも行く。しかしどうしてもない。先日ついに取り寄せしようと思い問い合わせる、絶版とのこと。再版してると思ったが……意外です。 もう面倒になったのでネットの力を借りて手に入れた。 著者(殊能…

『黒猫白猫』オスメス

マイベストコメディ映画の座を射止めたのはエミール・クストリッツァ監督の『黒猫白猫』。すごくいい映画。見ないのは持ったいない。むしろ見なさい。色々とあほらしくなってくるから。先週の文芸座で観てきた。 一応あらすじ ジプシーのマトゥコは、自称ダ…

どこから『私の消滅』するか

中村文則はいつか読もうと思っていた作家。『私の消滅』が本屋の店頭に並んでいるのを見て「早いな」。文学界の六月号に掲載されたばかりだろう。予め決まってたんだろうな。パラパラと単行本をめくった。違いは巻末に参考文献についての一言と内容について…

re:『UNDERGROUND』

以前にもこの映画のことには触れたがその時は見終わった後の気持ちに任せるがまま書いたので感想と言えるほどのものではかった。今週末に文芸座でエミール・クストリッツァ監督作品の上映がある。これは時機を得た。改めて振り返り今週末に臨もうぞ。 ・スト…

『ロリータ』コンプレックス

スタンリー・キューブリック監督の『ロリータ』は原作者ナボコフが脚本を書いたもののその2割程度しか使っておらずナボコフも不満を漏らしていたという(書いた脚本がそのままだったら7時間にも及ぶってなったら仕方ない気もする)。十分いい映画だと思っ…

『重力の虹』HAHAHA!理解不能

わっけわかんねぇ。 ささやかではあるがそれなりに本を読んできた身としては、たいていの本は読めると思っていたけれど今回そのチンケな自負をぶっ壊していただきました。ありがとうございます。世の中は広いね。あらすじをかけるほどに読めず内容も理解でき…

『オービタル・クラウド』個人的な話

まず陳謝。「三冠達成と言いはするが其の実我が心胆を律動させること叶わぬだろう」続けて曰く「荒筋を読んでも引き込まれぬ。良いものは荒筋の時点で魅力的なもの」さらに曰く「宇宙が舞台、しかし月よりも遠くに行かぬさいえんすふぃくしょんに目新しいも…

『こころ』時代性

都合三度目か、この本を読むのは。中学生で1回高校生で1回そして今大学生で1回。その時その時で感想は違うけれど、今回で始めて「やるな……」と思った。(何様だ)うーん、自分の未熟さを思い知るばかり。特に高校生の頃はこの本(てわけでもないが)バカ…

知能と詩

世界にはほかに誰もいない。 見渡してもほかに誰もいない。 大切なのは彼らだけだった。 残されたのは彼らだけだった。 彼はわたしと一緒にいなければならなかった。 彼女は彼と一緒にいなければならなかった。 わたしはこうしなければならなかった。 わたし…

『私の殺した男』また、殺した男に私は

あらすじ 第一次世界大戦が終わるも戦争中に殺した男のことが忘れられないフランス人のポール。彼の死体の傍らには恋人に宛てた手紙があった。懊悩するポール。人を殺した罪を戦争のせいにすることができず、自らの罪だと常に悔いる。 そしてポールは自分の…

『1984年』は何時?

『未来世紀ブラジル』を思い出した。それもそのはずでこの映画は1984年版『1984年』だとギリアム監督は言っていたそうだ。この出典はWikipediaだが信用していいだろう。それほどまでに根底にあるテーマ、扱い方はちよっと違うけど…は似通っていて全体は個に…

『スチームオペラ』 それはニッチ

スッチィィィィィムパァァアァァァァァンンンンンクゥゥゥゥゥゥ! あらすじ 蒸気機関を主な動力源とする大都会に暮らす少女エマは、空中船《極光号》の船長を迎えるため港への道を急いでいた。船内の一室で、ガラス張りの”繭“に封じられた少年を発見し、解…

『夏の夜の夢』間抜けたちの狂想曲 

愛すべき間抜け。間抜けかわいい。 あらすじ(夏の夜の夢) 妖精の王とその后の喧嘩に巻き込まれ、さらに茶目な小妖精パックが惚れ薬を誤用したために、思いがけない食い違いの生じた恋人たち。妖精と人間が展開する詩情豊かな幻想喜劇。 アテネの王様シーシ…

『蒲団』もふもふ

蒲団という題名だけしか知らず、いつ頃の作家なのかも知らず。今回紐解けば日本の私小説の先駆けとも言える小説だったそうな。私小説というよりか自然主義の代表作として解説には書かれていた。 私小説は自然主義の大枠の中に入るのだろう。そもそも自然主義…

服は人なり!(カエアンの聖衣)

”服”からよくここまでの大法螺が吹けるのだろう。発想が普通じゃないよ。バリントン・J・ベイリーはすげえなと改めて思う。 あらすじ 服は人なり、という衣装哲学を具現したカエアン製の衣装は、敵対するザイオード人らをも魅了し、高額で闇取引されていた。…

伽藍が白かったとき、とはどんな時代だったか

著者はル・コルビジュ。建築家。建築界では有名な人で建築やってる人で知らなかったらおそらくモグリでしょう。たぶんね。 建築家でありながら本も多数残している筆まめな人でもあります。「本を書くのは大嫌い」と本人は言っているらしいがそれでも本を書く…

わたしを離さないで

Never let me go=わたしを離さないで カズオ・イシグロの小説。わたしにしては珍しく、読んだ本 つまり”わたしをはなさないで”について他の人と話す機会があった。珍しいではなく初めてかもしれない。話の核心に触れていくので未読の方はご注意。 あらすじ …

BANANA FISH 

バナナフィッシュは死を呼ぶ魚として名を知られている。サリンジャーの『バナナフィッシュにうってつけの日』という短編に登場しており、バナナ穴に入ってバナナを食べ、そして死ぬしかない魚。 そんなバナナフィッシュが題名なこの少女漫画。吉田秋生といえ…

『第三の魔弾』の完璧さ

勘違いしたまま読んだけどそれでも面白い。 レオ・ペルッツ『第三の魔弾』 あらすじ 神聖ローマ帝国を追放され、新大陸に渡った”ラインの暴れ伯爵”グルムバッハは、アステカ国王に味方して、征服者コルテス率いるスペインの無敵軍に立ち向かった。グルムバッ…

チェロよ、しばし別れ

チェロに惹かれる。 だから初めて自分の意思でコンサートに行ってきた。以前言ったがコンサートとかライブは好きじゃない。一回も行ったことないくせにどの口が言うか!自省の意味も込めて初めてのコンサート。チェロとピアノ。 渋谷からほど近いけやきホー…

THE HATEFUL EIGHT 

おやおや、おっさんばっか。毛色が違う?雪山の山荘に閉じ込められたジジイ達の話。西部劇の時代、南北戦争直後。白か黒、もしくはインディアン。飛び散る肉片、吐き出す血飛沫、口から出るのは出鱈目だらけ。 みたら通常運転タランティーノ。 あらすじ 猛吹…

悉皆屋康吉

舟橋聖一は風俗小説。そんなイメージ。 『芸者小夏』もそうだった。この『悉皆屋康吉』もそう。だけれどもそんなジャンル、そんな区分をされていようと関係ない。これはいい小説。好きだ。 あらすじ 呉服についての便利屋であり、染色の仲介業者である悉皆屋…