常々感想記

本 映画 音楽 その他諸々の雑感を書き連ねるブログ

読書

『第三の魔弾』の完璧さ

勘違いしたまま読んだけどそれでも面白い。 レオ・ペルッツ『第三の魔弾』 あらすじ 神聖ローマ帝国を追放され、新大陸に渡った”ラインの暴れ伯爵”グルムバッハは、アステカ国王に味方して、征服者コルテス率いるスペインの無敵軍に立ち向かった。グルムバッ…

悉皆屋康吉

舟橋聖一は風俗小説。そんなイメージ。 『芸者小夏』もそうだった。この『悉皆屋康吉』もそう。だけれどもそんなジャンル、そんな区分をされていようと関係ない。これはいい小説。好きだ。 あらすじ 呉服についての便利屋であり、染色の仲介業者である悉皆屋…

クナウスゴール氏の歓迎会ーぼくは英語ができないので歓迎の意が示せないー

3月4日 ノルウェー大使館で開かれたクナウスゴール氏のイベントでは、終了後インフォーマルな歓迎会が開かれました。ささやかなもので、格式張ったものではないと。立食形式で、このイベント参加者はそのまま参加できるとのこと。 そんなもの一度も参加し…

徒然なるままに 「クナウスゴール語るー『わが闘争 父の死』、ノルウェー文学、そして世界」

2016.03.04 18:56 開始時刻寸前に目的地に到着。その割に席が埋りきっておらず、(隅っこは埋まっているが真ん中の方は人と隣あわせにならずに座れてしまう程度)一息ついていそいそと座る。オーロラホールという大仰な名前とは裏腹に、小ぶりのホール。しか…

ホワイト・ジャズ

暴力/腐敗/権力/政治/麻薬/密告/恐喝 言えることはひとつ。 エルロイはぶっ飛んでいる。 吐くのは保身のため、遠慮なく自らのために情報を売り流す。ここじゃあ誰彼だって俗に言う犯罪まがいのことはしているんだ。そんなところで我が身を大切にしなけ…

クロニクル・アラウンド・ザ・クロック

小説で音楽を扱うことは難しい。音は文字に置き換えることはできない。音楽をメインに据えるということはそれだけで水の中で息をしようとするようなものだろう。 『クロニクル・アラウンド・ザ・クロック』略してクロクロ。 あらすじ 幼稚で痛々しいわたしの…

アメリカ大陸のナチ文学

帯の背中に書いてある文句が「悪の輝きを放つ作家たち」。 悪の輝き、とはどんなものか。黒い光、それとも悪の意志を秘めて光ることか。輝くというより光を携えると言った方がいいのか。一体悪の輝きとは? あらすじ……といってもあらすじというあらすじがな…

フェルマータァァァァァァァァァァァァ!!!!!

指を鳴らしてみたり、メガネを指でクイッと押し上げたり、独自性を出し信号が赤になる瞬間に横断歩道を渡りきったり、足で5拍子のリズムをとってみたり、レシートを受け取るさいに絶対に小銭を重しに使わせないように努力してみたり。 ああ、ぼくもフェルマ…

グレン・グールドは語る、が何を言っているかぼくにはさっぱり

1974年8月15日発行のものと、次の8月29日、二号に渡ってローリング・ストーン誌に掲載されたグレン・グールドへのロングインタビュー記事に、補填や資料を加えた本。 グレン・グールドが自らの音楽、思想や理念をつまびらかに語るのですが……。 グレン・グー…

ワルシャワ・ゲットー

第二次世界大戦時、最大の受難者はユダヤ人だった。 彼らは排斥され、隔離され、処理された。ユダヤ人は人ではなく、羽虫のようにあっけなく命を散らしていった。奴隷以下の扱いを受け、そこを歩いていたから、という理由で殺されることはおかしくもなんとも…

深夜の人 結婚者の手記

日記や手紙、詩歌、随筆など集めて編纂した本。 素直で実直、だというのがぼくの室生犀星への印象。 彼の作品にでてくる人たちは、生きているというか鮮度が高いというか。自らの感情にいちいち理屈をつけたりしないところが好きだ。それにこの作品集は随筆…

正義と法の狭間で

浜尾四郎という推理小説家がいる。 推理小説家であると同時に犯罪小説家でもある。この二つは重なりやすいし、現に大抵の推理小説家は犯罪小説家である。この二つの違いは何か。推理と犯罪。推理小説は”謎”を解明する小説で、犯罪小説は”犯罪”を解剖する小説…

バレエ・メカニック

あらすじ 造形家である木根原の娘・理沙は、九年前に海辺で溺れてから深昏睡状態にある。「五番めは?」―彼を追いかけてくる幻聴と、モーツァルトの楽曲。高速道路ではありえない津波に遭遇し、各所で七本肢の巨大蜘蛛が目撃されているとも知る。担当医師の龍…

また会う日まで

「トランクスとブラには、見覚えはあるけど」 「こいつも悲しいんでしょう」 「辞めて惜しい仕事じゃない」 「おれには息子がいる!」 一年が終わる。 今年読んだ本の中で、心を打った本は数多くあるが、その中でもとびきりなもの、ほのかに発光する、本の感…

りら荘事件

推理小説を最近読んでいないことに気がついた。じゃあ久しぶりに何か読んでみようと思って手に取ったのは鮎川哲也の”りら荘事件”。一気呵成に読みきりたかったから、時間が空くのを待っていたら読み始めるのに買ってから少し時間が空いてしまった。読み始め…

ハーモニー

ユートピアであり、ディストピア 個を差し出して、得られた代替物は平穏と健康 「自分のカラダが、奴らの言葉に置き換えられていくなんて、そんなことに我慢できる……」 「わたしは、まっぴらよ」*1 ぼくにSFとは、を教えてくれた本。といってもSFにも多種多…

ルバイヤート

九重の空の広がりは虚無だ! 地の上の形もすべて虚無だ! たのしもうよ、生滅の宿にいる身だ、 ああ、一瞬のこの命とて虚無だ!*1 十一世紀ペルシアの詩人、オマル・ハイヤームは短い四行詩(ルバーイイ)で人生を歌い上げた。抒情的に簡潔に。難しいことは…

零式戦闘機

零式戦闘機、通称ゼロ戦。 その機体は日本の誇りと意地の結晶だった。 優れた性能を持ち第二次世界大戦で活躍した機体。 しかし次第に大国が迫ってくる。追い詰められる日本。 そして… ぼくにこの本を勧めてくれた人はこの本を絶賛していた。同時に”風立ちぬ…

もしもし

この本を読むときに気をつけること 1つ 他人の目が届かないところ、なるべく自室で読むこと 1つ 近くにティシュもしくはタオルと用意しておくこと 1つ バカになること、見栄や体裁は捨てること、思いきり笑うこと。(このためにも1人でいる時に読むがよ…

ケルベロス第五の首

綿菓子みたい。 曖昧模糊。捉えどころがない。なのにべたつく。 読み終わったはずなのに、読み終わった気がしない。 確かに最後の一語まで読んだ。読んだはずなのに。 ケルベロス第五の首 (未来の文学) 作者: ジーン・ウルフ,柳下毅一郎 出版社/メーカー: 国…

METAL GEAR

メタルギアソリッド ガンズ オブ ザ パトリオット ゲームのノベライズは読んだ経験もないし、興味もない。ゲームそのものをやればいいと思うし、ゲームでしかわからないことが山ほどある。わざわざ小説にしたものを読む必要はない、ゲームをやれば済む話、と…

戦争と平和 

名前は誰もが知っている。 しかしその中身、その極厚の本の内容となると、皆ぼんやりとしか把握していないのではないだろうか。だってめちゃめちゃ長いし、めちゃめちゃ疲れるし、これを最後まで読み通す気力を持ち続けるのは困難ではないか。 題名は強烈、…

いざ、「屍者の帝国」へゆかんとす

我々が死者に安らかであれ、と願うのは何故だろか。 それは死者が往々にして安らかではないからだ。 と著者のひとり伊藤計劃は色々なところで言っている。伊藤さんの最後の作品となってしまったこの作品。 プロローグは死者が、この話では屍者と呼称される、…

Mって何さ

下手な官能小説よりエロティックじゃないんですかコレ(官能小説読んだことありませんが)と毛皮を着たヴィーナスを読んで思います。 何でもマゾヒズムの語源はこの著者のレーオポルト・フォン・ザッヘル=マゾッホから性科学者、初めて聞いたぜこんな科学分…

女たちよ!

言っておくけれどぼくが女性に対して含むところは、今のところない。「女たちよ!」というのはそういう題名の本です。とても面白いです。 映画俳優であり、デザイナーであり、エッセイストであり、映画監督でもあり、翻訳もし料理も上手。そんな伊丹十三が著…